日本かぼちゃばなし 10
~前回までのあらすじ~
無事に外資系畑の筆記試験をパスしたカボタン。いよいよ面接の時がやってきました。
カボタンが面接会場に入ると、そこには小さなサツマイモおじさんと、大きな白菜男性が座っていました。
サツマイモおじさんは白菜男性に合図を送り、カボタンの面接を始めるよう促しました。
「カボタンさん、では面接をはじめます。私は白菜鍋といいます。今回、採用を行っている部のマネージャーです」
「私はサツマ坂です。畑長をしています」
「カボタンといいます。宜しくお願いします」
3人(3野菜)の自己紹介が終わり、カボタンへの質問が始まりました。志望動機から自己アピールへ、そして次第に、少し踏み込んだ質問へとシフトしていきました。
「どうして今の畑を辞めたいと思っているのですか?」
この質問を待っていましたと言わんばかりに、カボタンは鬱憤をぶちまけました。「面接で前職の悪口を言うのは控えましょう」という転職マニュアル本のアドバイスは完全に無視です。
「はいっ!今の畑ではサービス残業やサービス出勤が当たり前になっていて、ずっと立ち仕事なので足(つる)を痛めて嫌になりました!あと、結婚(受粉)しても正社員(正畑員)を続けられると畑説明会で聞いていたのに、実際は受粉した女野菜は強制的にフルタイムからパートにさせられることを後から知って、畑の方針に納得できませんでした!あと、……(以下略)」
そう。カボタンが働いているブラック畑では今もなお、石器時代並みの価値観がまかり通っているのでした。
専務のロマネスコ夫人(日本かぼちゃばなし 5 参照)は、よくこう言っていました。
ーー女野菜は本来、家庭を持ったら畑を辞めなければなりません!家庭第一ですからね。いいですか、家事や育児に専念すべき女野菜が、それでもなお働くということは、旦那さんにお願いをして『働かせてもらっている』ということです!いいですか、受粉をした女野菜達は皆、常にそれを自覚しなければなりません!働かせてもらっている皆さんは毎日、旦那さんに感謝しなければなりません…!!ーー
ロマネスコ夫人のキチガイ発言をふと思い出してしまったカボタンは、突然頭痛と吐き気がしましたが、なんとか汁が出るのを堪えました。
サツマ坂さんと白菜鍋さんは目(芽)を丸くしました。そして、カボタンに哀れみの眼差しを向けました。
「えっ…?それは酷いな…もしその情報を入社(入畑)前に知ってたらどうしてた?」
「知ってたらもちろん、入畑しませんでしたっ!」
「だよね(笑)じゃあ、ここの新しい仕事は自分に向いていると思う?」
「それはやってみないと分かりません!」
「だよね(笑)正直でよろしい」
鬱憤を思う存分撒き散らしたカボタンは、もはや何も取り繕う必要はありませんでした。
(そういえば、白菜鍋さんの目力凄いなぁ…産地が東京って言ってたけど、やっぱ都会育ちは髪型(葉型)とかも洗練されてて垢(アク)抜けてるなぁ…)
カボタンは面接中にふと、そんなことを考えていました。
一次面接を無事終えたカボタンは、この翌日、早速二次面接に呼ばれました。なんというスピード感でしょう。
二次面接は終始和やかな雰囲気で行われ、カボタンの内定はほぼ確実となりました。
人前(野菜前)で話すのが大の苦手なカボタンでしたが、この外資系畑では、不思議と自然体(無農薬野菜)でいられるのでした。
(続く)