外資かぼちゃばなし 14
~前回までのあらすじ~
外国産農産物達の前でウジウジしてしまう自分が情けなくなったカボタンは、心機一転、グローバル人材(野菜)になる決意を固めました。
「よーし、やるぞ~!」
カボタンは畑から帰宅後に早速、高校時代に使っていた英語の参考書を引っ張り出し、最初の1ページをめくりました。
すると大量の英文が目(芽)に飛び込んできたので、カボタンは少し眩暈がしました。
気を取り直して読解を試みましたが、わずか3行目で急にカボタンを睡魔が襲いました。
(あれ…?おかしいな…こんな時間に眠くなる…なん…te…)
パアァァ……
カボタンは、いつの間にか明るい野原にいました。
小川のせせらぎと小鳥達のさえずりが聞こえ、心地の良い風がカボタンの顔を撫でました。
「これはもしや…夢?」
カボタンは何故か、妙な全能感に満ち溢れていました。
「あ、また例のあれか…」
実のところカボタンは昔から、自分が夢を見ていることを自覚しながら見る夢(明晰夢)をよく見る野菜でした。
「ラッキー!ここなら自分の好き勝手できるな。よし、今日もBrunoとデートしようっと」
明晰夢を見るときはいつも、大好きなミュージシャンのBruno Marsとキャッキャウフフしていたカボタン。
しかし、いつもならどこからともなく爽やかスマイルで駆けつけてくれるBrunoの姿が、今日はいくら探しても見当たりません。
「Brunooo!出ておいで私のBruunooooooo!Youは今どこにいるのー?」
あのリーゼントヘアーのイケメンは、一体どこにいるのでしょう。
カボタンがいくら叫んでも、野原は果てしなく広がるばかり。愛しのBrunoはいっこうに現れません。
カボタンは叫ぶのをやめ、大きな溜め息をつきました。
『カボタンさん』
「だ、誰?!」
突如として女性の声がしたので、カボタンは飛び上がりました。それに合わせて花びらがふわふわと舞い上がりました。
『カボタンさん、聞こえますか?私はあなたの心に直接語りかけています』
「いやお前誰だよ」
声の主がBruno Marsではなかったので、カボタンは少しふてくされてしまいました。
『私は別次元にいるもう一人のあなたです』
「ベタな展開だな」
『まあまあ。そんな顔しないで。私はいつもあなたを見ていましたよ。嬉しいときも、悲しいときも、辛いときも、悔しいときも、重量が増えたときも、髪型に失敗したときも、ずっと…』
「見てたんなら助けてよ」
カボタンはこの異常な状況下にも関わらず、得体の知れない声の主にツッコミを入れました。
『ごめんなさい。私はあなたを遠くから見守ることしかできないのです』
「なんで?」
『それは…』
「ねぇ、なんで?」
『それは…えーっと…なんでだっけ?』
「…」
『ごめんなさい。実はついこの間マニュアルを紛失したばかりで。えーっと…』ゴソゴソ…
「別次元のもう一人の私とやらも相当ドジだな」
カボタンはまた大きな溜め息をつきました。
『こらこら、溜め息ばかりついてたら幸せが逃げて行っちゃうぞ☆』
「キャラ変えてごまかそうとしても無駄」
『…』
「で?何か私に用?」
『あ、そうそう。君がもうすぐ人生(野菜生)の大きな転換期を迎えるから、ちょっと教えに来てやったんだよ』
「なんか急に口調変わったな」
『まあ聞きなって。君がこの後現実世界でBruno Marsに近い系統のイケメンと出逢えるように、私がちょっと手ぇ回しといたから』
「えっ?!ちょ、マジで?!超嬉しい!」
『フフフ…感謝したまえ』
「あれ?でもさっき、助けるのは無理って…」
『うん、物理的には無理。でも目に見えない部分はちょっといじれるんだよ。電波とか磁場とか、潜在意識とかね。ただ、出逢い方がちょっと特殊になるから勘弁な』
「Bruno Marsみたいなイケメンに出逢えるならもう何でもいいよ!」
『はぁ…君は本当に単純だな。ちょっとワケあって色々と苦労すると思うけど、まあ何とかなるでしょう。あと補足だけど、君、カレー作る練習しといた方が良いよ』
「は?カレー?なんで?」
『なんででも!これ以上の情報は禁則事項なの!それじゃ、私そろそろ向こうの世界に帰るわ』
「えー!もっと話聞かせてよー!」
てよー!
よー…!
…!
…
ジリリリリリリリ…ジリリリリリリリ…
「はっ!!」
カボタンが目を覚ますと、窓の外はすっかり朝になっていました。
起きた瞬間に夢の内容をすっかり忘れてしまったカボタンですが、その日の晩は何故か無性にカレーが食べたくなるのでした。
(続く)