外資かぼちゃばなし 20
〜前回までのあらすじ〜
日本産かぼちゃのカボタンは、インド産じゃがいものポテッタントと、超遠距離国際恋愛をすることになりました。この時点で、カボタンが外資系畑に入畑してから約1年が経過していました。
「えっ?キャロラインちゃん、辞めちゃうの?」
ランチの時間に無添加スープを吸収していたカボタンを、キャロラインは真剣な眼差しで見つめました。相変わらず吸い込まれそうな美しい瞳をしています。
「うん。私、やっぱりこういう淡々とした仕事って向いてないなと思ってさ!」
「そっか…同期がいなくなるのは寂しいけど、キャロラインちゃんがそう決心したなら、応援する!辞めた後も遊ぼうね?」
「もちろん!カボタンちゃんも、彼と上手く行くと良いね!また近況報告してね!」
キャロラインは吹っ切れたように、とびっきりの笑顔をカボタンに見せました。周りでランチをとっている男達のギラギラとした視線に、当の本人(本菜)は気づいていないようです。
キレ味の良いピーラーの如く、仕事も頭の回転も超絶スピーディーなキャロラインは、1ヶ月も経たない内にサッと転畑先を見つけ、ササッと華麗に退畑して行きました。
キャロラインが退畑して数日後、カボタンは上司の白菜鍋さんに呼び出されました。
カボタンは1年前にビリッケツ宣言を受けてから(外資かぼちゃばなし 8 参照)上司を恐れていたので、自分が仕事でとんでもないミスをやらかしたのではないかとビクビクしていました。
「カボタンさん、そんなに緊張しないで」
「あの…すみません…私、何かやらかしましたでしょうか…?」
梅干しのように小さくなっていたカボタンは、何とか汁が出るのを抑えながら、小さな声を絞り出しました。
「いえ、そんな話ではないので安心して下さい。えーっとですね…最近、カボタンさんと仲の良い同僚達が続々と辞めていってるから、その…」
「え?」
「ほら、キャロラインさん含め、カボタンさんと年の近い同僚達が次々と辞めていってるでしょう?きっとカボタンさんも寂しい思いをされてるかなと思いましてね…」
「え?はぁ、まぁ年が近い同僚達が辞めていくのは寂しいですけど…」
「……それでね、ハッキリ言うとね、もしかして、カボタンさんもこれに続いて辞めちゃったりなんてこと、あるのかなー?なんて、心配になりましてね…」
カボタンはようやく、オブラートに包まれてボンヤリとしていた、上司が言わんとすることを把握しました。
それと共に、カボタンの中によく分からない怒りが込み上げてきました。
「わ、私、そんなことしません…!!たとえ仲の良い同僚達が辞めても、じゃあ私も辞めようだなんて、そんな小学生や中学生みたいなこと考えたりしません…!!」
「あぁ…ですよね、カボタンさんがそのような野菜ではないことは分かっているのですが…念のための確認ですよ」
さっきまで梅干しのように小さくなっていたカボタンが声を荒げたのを目の当たりにして、上司は少し戸惑いを見せました。
「でも安心しましたよ、カボタンさん。これからも宜しくお願いしますね」
そう言って上司は軽く微笑み、南アルプスの天然水か何かで綺麗に洗浄された菜っ葉をなびかせながら、颯爽と部屋から出ていきました。
(くっ…子ども(苗)扱いかよ…あれ…でも何だろうこの気持ち…)
上司の微笑みや言葉が社交辞令であることを重々承知しているにも関わらず、カボタンは妙な高揚感を覚えるのでした。
(続く)