かぼちゃの悪魔

インド彼氏とのロマンスコメディーを書こうとして徐々に迷走し始めたブログ

コロナでフリーターになった話

コロナでフリーターになった。


今年のゴールデンウィークにインドで結婚式をするため、大好きな職場を泣く泣く退職した矢先に、インドがロックダウンした。
インドのロックがダウンしてしまったのだ。もう意味が分からない。当然、渡航も結婚式も無期延期になった。


私は確信した。


「きっと私は前世でコロナという名前の女性に酷い事をしたに違いない。たぶんその女性の旦那と不倫とかして略奪婚したに違いない。きっとその時のカルマが今になってやって来たのだろう」と。


退職時には結婚祝いと花束を貰い、祝福ムードで送別会までやってもらったのに、なんか色々と台無しである。あの涙を返せ。


チームリーダーは「また戻って来ても良いから!」と私を慰めてくれたが、泣きながら皆とサヨナラしたあの感動の別れからたったの2ヶ月で舞い戻るのは、流石に恥ずかしすぎた。
大好きな皆とまた一緒に働きたいという思いより、恥ずかしさの方が上回ってしまった。自分は何も悪くないはずなのに。


それにもし私が戻ったら、絶対に上司が薄ら笑いを浮かべながら「あれ?戻って来たんだ?笑」とか言ってくるに違いない。
それは絶対に絶対に避けなければならなかった。



途方に暮れた私は、とりあえずネットで見つけた高時給かつ短時間の在宅ワークに飛び付き、運良く採用され、引きこもり生活を始めた。


「ま、3ヶ月くらいしたら収束するだろう」


そう信じていた。


全然収束しなかった。


前世で私が酷い事をした女性の怨念は、相当なものらしい。


その証拠に、初めての在宅ワークでは自分の圧倒的スキル不足に圧倒され、慣れない業務に疲弊し、顔が見えないコミュニケーションで人間不信になり、2〜3回だけオンラインで顔を合わせた担当者からの「フィアンセは元気?笑」「いつインドに渡航するの?」「なんでいつ行けるか分からないの?」といった数々のマウントにより、私のHPは完全にゼロになった。



そのうち始業開始10分前になると便意を催してトイレへ駆け込むようになっていた。



このままではトイレが詰まってしまうのではないかと心配になり、在宅ワークは半年くらいで辞めることになった。

最終日はマネージャーと顔すらも合わせず、チャットで今までありがとうございました!とメッセージが届いただけだった。

あまりにもあっけない退職だったので、もしかして私はまだ退職していないのではないか?と錯覚してしまうほどだった。

これはまるで名探偵夢水清四郎事件ノート外伝(番外)の大江戸編に出てくる中村巧之助の技、刀さばきが速すぎて斬られたものが斬らたことに気づかず、切り離されずにそのままくっついてしまう「もどし斬り」、通称「ぬかずの天真流」ではないか。



私は何を言っているのだろうか。話を戻そう。



ニートへの階段を登ろうとしている事を自覚し始めた私は、マジで自尊心が崩壊する5秒前だった。

インドにいる彼の「働かなくても良いから。君はそのままで良いから」という言葉が、遠く遠くに聞こえた。



とりあえず求人サイトに登録し、早速届いたインド企業からのオファーメールに疑心暗鬼になりつつも、とりあえずオンライン面接を受けることにした。






面接当日、



私はずいぶんと長い間、



パソコンの前で待機していた。






面接は1時間を予定していたが、採用担当者は1時間遅刻してきたのだ。


大丈夫。想定の範囲内


私は最初、彼女が何を言っているのか全くサッパリ理解できなかった。


イヤフォン越しに咀嚼音が聞こえたのだ。


迂闊だった。きっと、ランチタイムだったのだろう。インド人にとって貴重なランチタイムを、私の面接のせいで邪魔してしまった。


とても申し訳無い気持ちになった。


私はかろうじて彼女の「ムンバイに引っ越す予定ある?」という質問だけ聞き取れた。

ムンバイに引っ越す予定は今のところ無いので、ありがとうサヨナラと丁寧に挨拶して、面接は無事に終了した。




その日以来、求人サイトから届くオファーメールを見る度に咀嚼音の幻聴が聞こえるようになってしまったので、オファーメールは全部無視することにした。




数日後、私はハローワークに行った。その翌日採用されたパート先で、今は心穏やかに働いている。




きっとまた、何か問題が出てくるのだろう。そしてまた、悩むのだろう。


その時が来たら思いっきり悩んで、惨めな思いを味わって、泣いて怒って鬱になって、薄暗い闇のドン底に落ちて、そしてまたしばらくしたら、笑い話に変えよう。今までそうしてきたように。

それでもどうしても笑えないなら、せめて美味しい物でも食べて忘れよう。無理して笑う必要はない。

それでもどうしても忘れられないなら、それはそれで良い。無理して忘れる必要もない。






全ての医療関係者の方々に、心より感謝申し上げます。



(コロナでフリーターになった話 終わり)